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低収入の若年労働者が事故にあった場合,逸失利益は低くなる?

高齢者の逸失利益は低くなる?

以前,高齢者の逸失利益について触れました。

高齢者の場合,働き盛りの頃と比べると収入が低下していることが多く,また就労可能期間も短くなっているので,結果的に逸失利益が低くなることが少なくありません。

若年労働者の場合は?

逆に若い人の場合も,高齢者と同様,収入が低い人が少なくありません。そうすると,逸失利益はやはり低くなるのでしょうか。

しかし,日本の雇用は,最近薄まってきたとはいえ,年功序列型の賃金体系が多く,若年労働者の賃金は低めに抑えられています。

他方で,逸失利益は原則として67歳までの就労可能期間全体に関する損害であり,その賠償金を,低めに設定された現在の賃金を基礎収入として計算するとしたら,若年者にとって酷になるおそれがあります。

若年労働者の逸失利益に関する「三庁共同提言」

この問題については,平成11年に東京地裁,大阪地裁,名古屋地裁の三庁が逸失利益の算定方法に共同提言を発表しています。

その中では,「原則として,・・・比較的若年の被害者で生涯を通じて全年齢平均賃金程度の収入を得られる蓋然性が認められる場合については,基礎収入を全年齢平均賃金又は学歴別平均賃金・・・による」こととされています。

つまり,生涯を通じて全年齢平均賃金程度の収入が得られることが確実である,と認められる場合は,現在の収入ではなく,

 ●全年齢平均賃金または,

 ●学歴別平均賃金

で基礎収入を計算してもらえる可能性が高まった,ということです。

「比較的若年の被害者」とは何歳まで?

「比較的若年の被害者」は,提言の中では「おおむね30歳未満」とされています。

ただし,自賠責保険の支払基準では,35歳未満の被害者については現実収入でなく平均賃金を用いることとされているため,30歳を超えても,35歳未満くらいまでなら「比較的若年の被害者」と認められる可能性があります。

計算例

現実収入を基礎収入とした場合

平均賃金(いずれも年収)は,平成26年賃金センサスでいえば,全年齢平均賃金は,男性で年収536万円,女性で364万円です。学歴別平均賃金は,たとえば高校卒ですと,男性で466万円,女性で305万円です。

たとえば,30歳で年収300万円の高卒男性が,7級の後遺症(労働能力喪失率56%)を負ったという事案で,現実収入を基礎収入とすると,逸失利益は2807万円となります。

全年齢平均賃金を基礎収入とした場合

これに対し,三庁共同提言が当てはまる場合,全年齢平均賃金を基礎収入とすると5016万円,学歴別平均賃金を基礎収入とすると4360万円となります。

あくまで「蓋然性」が認められることが必要

三庁共同提言でいう平均賃金での計算が認められるのは,あくまで「生涯を通じて全年齢平均賃金程度の収入を得られる蓋然性が認められる場合」です。

蓋然性とは?

「蓋然性」は,確実性と言い換えてもよいと思いますが,単なる可能性では足りません

三庁共同提言では,「蓋然性」を判断する要素として,

  • 現在の職業
  • 事故前の職歴と稼働状況
  • 実収入と平均賃金の乖離の程度や原因

などが挙げられています。

たとえば,実収入が平均賃金の半分もなく,特別な資格や技能を有しておらず事故前も高給を得られる職に就いたことはなく,年齢も30歳を過ぎている,というようなケースですと,「生涯を通じて全年齢平均賃金程度の収入を得られる蓋然性」が認められるのは厳しいと思われます。

非正規雇用と同一労働同一賃金

「蓋然性」の判断において,実収入と平均賃金の乖離の程度は重要な要素です。

非正規雇用だからといって「蓋然性」が認められないというわけではありませんが,我が国では,一般に非正規雇用の賃金は低く,かつそこから正社員になるのがなかなか難しいという実情があるため,結果的に「蓋然性」が認められにくい場合が多いのではないかと思います。

もっとも,昨今,政権が雇用制度改革による同一労働同一賃金の実現を謳っていますが,本当にそれが実現されれば,非正規労働者の逸失利益に影響してくるかもしれません。

弁護士 曽我陽一

弁護士 曽我陽一

仙台弁護士会所属 曽我法律事務所代表弁護士。東京都内の綜合法律事務所にて企業法務に従事したのち,2008年4月に仙台市内にて独立開業する。2010年より交通事故紛争処理センター嘱託弁護士として4年間活動。現在も交通事故案件を扱う。

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